Know-How ノウハウ

【読了】『テミスの剣』

2025.05.03

中山七里2冊目。相変わらずストーリーの展開が面白い。
じっくりと練るところと急展開なところ。伏線の回収。まさかの展開。それらを支えている登場人物の丁寧な描写。うーーん。この人すごい人、とか思いながら一気読みしてしまう。
画力というか、話力というか、とにかくパワフルで巻き込まれていきます。

本書は警察の冤罪を扱ったもの。警察、というか司法も含めて。
少し昔までは警察の強引な捜査や事情聴取によって「自白」させられ、そのまま刑が確定してしまう、ということは多かったよう。
勿論本当にやっていればいいのだが、検挙することを優先するがあまり、無理やり自白させたり、「今のうちに言っておいた方が刑が軽くなるよ。」と懐柔したり。
そして物的証拠もそこそこあるから刑が確定する。
本書の事件の場合はその証拠すら警察によって捏造された、という最悪のパターン。
こうなると何が起きるか。
裁判所は捜査機関ではないので、そういった客観的な物証を元に判決を下すしかない。
なんかおかしい、と思っても弁護士がそこを踏ん張らなければ、証拠を元に判決を下す。

本書のケースは死刑判決が下され、被告人は獄中で自殺。でも、実は冤罪だったという最悪のパターン。
まあ、その原因を作ったのがまさかの人物なのだが、それはネタバレになるのでさておき。

本書を読んでいると、組織の理屈って身勝手だな、と感じる。
捜査の誤りに気づき、それを告発した刑事は暴行を受け(警官から)、仲間外れにされ、閑職に追いやられる。
「君の独りよがりの正義感で皆が迷惑してる。被疑者はもう死んでいるし、誰に対する贖罪なのか?」みたいなセリフがあった。
冤罪を告発した渡瀬という刑事は自身の良心、正しい正義のため、という理由で苦しみながらも冤罪を告発しようとするが、それに待ったをかける警察組織。

この「組織のため」が厄介であり、これは民間企業にも同じことが言える。
組織を守るため、という理由で粉飾決算や不祥事を起こすケースは少なくない。
でも、そもそも考えないといけないのは、組織のある目的。
それは社会の役に立つこと。それが企業の存在意義であり、警察も一緒。

つまり、社会的にどうなのか?が大事であり自分たちの組織を守ることは目的ではない。
前述の、独りよがりに正義、というのもおかしな話であり、そもそも社会からみて正しい正義を守ることが警察の存在意義であり、警察という組織を守ることは正義でも何でもない。ただの保身。

民間企業も一緒で、銀行の融資が受けられなくなるから決算をごまかす、とか、ディーラーへの納期を守るために車の最終検査を適当にやるとか、利益を出すためにコンクリートの含有量を減らすとか。それはあくまで組織の理屈であり、社会的には「どうなん?」という話。

常日頃から事業の目的や仕事の目的を理解し、そこに導かれること。

そんなまっとうな組織を作りたいな、と改めて。